【中国よもやま話】61年ぶり人口減の中国でも始まった子育て支援の大号令

2023.2.6
  • 中国と言えば多くの人が「世界一人口の多い国」という印象を持っているでしょう。しかしそんな時代も間もなく終わりを迎えそうです。中国は2022年、61年ぶりに人口が減少しました。一人っ子政策を廃止し、3人目の出産を容認しても出生率が上がらず、日本のように「出産手当・育児手当」を導入したり、育児休暇を拡大して子育て支援を導入する自治体が増えています。SFホールディングの本社がある深圳市も、育児手当制度の準備を始めました。

    中国国家統計局は1月17日、2022年末時点の人口が前年から85万人減少したと発表しました。人口減少は1961年以来61年ぶりです。2022年の出生数は956万人と、前年から107万人減少しました。1000万人を下回ったのは1949年の建国以来で初めてとなります。

     

    国連は2023年にインドの人口が中国を抜いて世界最多になると予測していますが、実際には昨年時点で人口の逆転が起きている可能性も指摘されています。

     

    2022年の65歳以上の人口は2億978万人で、高齢化率は14.9%でした。日本の29.1%(2021年)の半分ほどですが、高齢化が進むペースは予想よりも早く、労働力の急減が懸念されます。

     

    中国は1970年代に一人っ子政策を導入し、2015年まで産児制限を続けていました。しかし少子高齢化が現実的になり、2015年末に約40年ぶりに一人っ子政策を撤廃しました。政府は当時、「政策見直しによって、出生数は2000万人に増える」と試算していましたが、2016年の出生数こそ前年比131万人多い1786万人に増えたものの、その後は減少に転じ、2020年の出生者数は政策転換前の2015年(1655万人)よりも3割近く少ない1200万人に落ち込みました。政府の目論見は完全に外れたわけです。

     

    その後、2021年には第3子の出産も容認されましたが、冒頭で述べたように2022年の出生数は1000万人を割り込みました。

     

    出産意欲後退し空前のペットブーム

    少子化の原因はいくつかあります。まず40年以上続いた一人っ子政策で、出産適齢期の女性の人口が減っていることです。さらに教育費の高騰や女性の社会進出で女性が出産をためらうようになりました。今の20~30代にとって一人っ子は当たり前で、かつ子ども一人でも負担が重いと考えています。「子どもを持つよりペットの方が気楽でいい」と考える若者も少なくなく、中国では空前のペットブームが続いています。

     

    さらにコロナ禍で結婚と出産の両方を控える動きが加速しました。上海市のロックダウン(都市封鎖)で経済が混乱した2021年4~6月の婚姻数は前年同期比20.1%減少しています。

     

    産まない原因が子育て負担の重さにあるとようやく認識した中国政府は2021年、税金や保険、住宅、就業など各方面で負担を減らす方針を示しました。政府の方針を受け、第3子の出産について産休の日数を加算したり、出産費用を無償にする自治体も出てきました。同年秋には、四川省攀枝花市が全国で初めて日本の児童手当に相当する制度を新設しました。2人目以降の子どもが3歳になるまで毎月500元(約9500円)を支給するという内容です。ただ、中国で導入された支援策の大半が第3子からの適用で、四川省攀枝花市の手当は3歳で打ち切られます。中国の少子化はそもそも1人も産みたくないと考えている女性が増えた結果であって、これらの制度も出産の後押しにはなかなかつながっていません。

     

    平均年齢33歳の深圳市が出産・育児手当検討

    そんな中、北京、上海、広州と並ぶ「1級都市」である深圳市が今年1月、1人目も対象にした出産・育児手当の導入を検討していることが明らかになり、反響を呼んでいます。

     

    深圳市は2023年1月11日、出産・育児手当の制度化に向け意見を募るための草稿(意見募集稿)を発表しました。草稿によると、第1子の出産時に3000元(約5万7000円)の一時金を、3歳になるまで毎年1500元(約2万9000円)の手当を支給します。一時金と育児手当の額は第2子、第3子と子供の数に比例して増えるとしています。

     

    寂れた漁村から改革・開放の波に乗って1990年以降急成長し、テクノロジー企業が集積する同市は「中国で最も住民の年齢が若い都市」として知られています。市民の平均年齢は33歳で、60歳以上の高齢化率は5%と全国平均を大きく下回っています。若い人が多い分、出生率も全国有数の高さを維持しています。

     

    にもかかわらず深圳市が他の大都市に先駆けて第1子への手当導入を検討しているのは、同市の出生数の減り方が大きいからです。深圳の出生数は一人っ子政策廃止後の2017年をピークに低下が続き、2021年にはピーク時の4分の3に減りました。若者が多い都市だけあって女性の晩婚化、出産意欲の低下というトレンドも他地域より鮮明に現れており、このままだと2027年に高齢化社会に突入するとの試算もあります。

     

    とは言え、第1子の育児手当を月額にすると120元(約2300円)。同市の物価や育児コストの高さを考えると、出産を後押しするには十分な額ではありません。

     

    それでも深圳市という中国を代表する都市が出産・育児支援に乗り出したインパクトは大きいと言えます。日本では岸田首相が「異次元の少子化対策」を打ち出し、注目を集めていますが、中国でも今後は自治体ごとの支援合戦が展開されそうです。

     

    10年前は2人目の出産に罰金が科されていたことを考えると、隔世の感があります。中国は変化と進化が非常に速い国ですが、「老化」「活力の低下」のスピードを食い止める戦いも正念場を迎えています。

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