【中国よもやま話】「アイスのエルメス」ともてはやされた高級ブランド「鍾薛高」、マーケ戦略ミスで信頼を失う

2022.8.22
  •  (鍾薛高の小紅書公式アカウントより)

     

    今年は6月に梅雨が明け、異常な暑さが続いています。スーパーやコンビニに寄ったときに、アイスの誘惑に負けてつい買ってしまうことも増えました。中国でも日本並み、あるいはそれ以上の酷暑が続いており、SNSで「アイスクリームの刺客」という言葉をよく見かけるようになりました。「刺客」とは穏やかでないですが、狙われているのは誰なのでしょうか。

     

    気温が上がりアイスの売れ行きが急速に伸びた6月末、中国のSNSで「アイスクリームの刺客」という言葉がハッシュタグ付きで拡散し始めました。

     

    SNSで「刺客」と名指しされた代表格が、2018年に設立された新興ブランドの「鍾薛高(Chicecream)」です。同ブランドは雲南省のコーヒー豆や高知県産のゆずなど高級食材をふんだんに使用したアイスバーを展開し、中国の伝統的な要素を取り入れたデザインも相まって、女性たちの間で大人気になりました。1本あたりの価格は13〜18元(約260〜360円)と海外ブランドのハーゲンダッツ並みに高く、過去に1本66元(約1300円)のアイスバーを発売したことから、「アイスのエルメス」とも称されています。

     

    鍾薛高が短期間で成長できた背景には、巧みなSNSマーケティングとECの活用があります。季節限定品などの新商品を次々に発表し、中国版TikTok「抖音」、写真投稿SNS「小紅書(RED)」でインフルエンサーによるレビューや投稿を大量投下、アリババのEC店舗に誘導します。その循環によって、女性たちの「自分へのご褒美」や「SNS映え」の需要を開拓していきました。

     

    コンビニやスーパーへの進出が裏目

    鍾薛高はさらなる成長を目指し、最近はコンビニやスーパーにも商品を納入するようになりました。しかし、これが悲劇を生むことになります。

     

    小売店のアイスケースにはさまざまなメーカーの商品が一緒に陳列されます。また、価格が明示されていないことも多々あることから、以下のような訴えが続出するようになりました。

    1、コンビニやスーパーの冷凍庫からアイスを取り出してレジに持って行くと、その中に鍾薛高の商品が混じっていて、20元近い支払いを求められる。

    2、買い物客は金額にびっくりするものの、会計の段階でキャンセルするのも気まずいので、仕方なく購入する。

    3、食べても価格分の価値を感じられず、不満が募る。

     

    これらの経験がSNSで多数共有され、鍾薛高などの高級ブランドが、冷凍ケースの中で他の商品に紛れて消費者の財布を狙う「アイスクリームの刺客」と揶揄されるようになったのです。

     

    鍾薛高は若い女性に人気のSNSで知名度を上げてきましたが、それ以外の消費者層にはあまり認知されていませんでした。にもかかわらず、老若男女が訪れるスーパーやコンビニに商品を卸したことで、「体を冷やしてくれる安いアイス」を求めてやってきた消費者とのミスマッチが発生し、「騙された」という購入体験を植え付けました。

     

    専門店を出したり小売店で専用冷凍庫に商品を陳列することで、他のアイスとは「別物」であることを消費者に明示しているハーゲンダッツと比べて「不誠実」とも批判されました。

     

    「アイスのエルメス」として短期間に人気を得た鍾薛高は、マーケティング戦略のミスで信頼を失い、「アイスの刺客」と呼ばれるようになりました。それでも消費の多様化を背景に、高級アイス市場が今後も拡大するのは間違いありません。

     

    茅台アイスは注文後の配達サービスも導入

    今年5月には高級白酒ブランド「茅台(マオタイ)」が1カップ50元(約1000円)を超えるアイスクリームを売り出し、話題になりました。7月23日には北京と上海を対象に、オンラインで購入してその日のうちに希望の場所に配送するサービスを始めました。実はSFグループが、茅台アイスのコールドチェーン宅配を担当しています。

     

    デパ地下のケーキは、1つ500円を超えるものも珍しくなく、1000円のアイスを「ぜいたくなデザート」として受け入れる消費者もいるでしょう。ただしそのためには、品質は言うに及ばず、そのブランドを購入することで得られる体験の価値も上げなければなりません。すぐ溶けてしまうアイスは長時間持ち運ぶことが難しく、この暑さの中では遠くまで買いに行くことも簡単ではありません。茅台アイスは、ECでの注文とSFのリアルタイム配送(市内なら3時間以内の到着を目標としているとのこと)を組合わせることで、消費者のタイミングで高級アイスを味わえる「体験」も、商品価値に取り入れたいようです。

     

     

     

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