【中国よもやま話】消費と物流を一変させたダブルイレブン。宅配企業の試練と成長

2021.10.27
  • 中国には「金九銀十」という言葉があります。暑すぎず、寒すぎない行楽シーズン、そして中秋節の3連休と国慶節の7連休があることから、「1年で最も消費が盛り上がる9月、10月」という意味です。かつては自動車や家電メーカーはこの時期に大規模なセールを仕掛けていました。しかし11月のインターネットセール「ダブルイレブン」が登場したことで、10月は買い控えが起きて消費が低迷する月になりました。今回は、2009年に始まったダブルイレブンが消費者や物流業界にもたらした変化を紹介します。

     

    ECの成長をけん引したダブルイレブン

    11月11日にピークを迎えるダブルイレブンは、日本でも毎年報道されるので、知っている人も多いでしょう。この日は「1」(独身)が4つ並ぶことから、約10年前までは若者の間で「独身の日」として祝われており、中国EC首位のアリババグループが「独身の日を盛り上げるために」2009年にセールを始めました。だから日本では、「ダブルイレブン」「独身の日セール」という2つの呼び方が今も併存しています。

     

    今年のダブルイレブン商戦はすでに始まっています。

     

    ダブルイレブンが国民的イベントに成長したのは、中国でスマートフォンが普及した2012年ごろです。消費者は11月10日夜から待機し、日付が変わると同時にネットショッピングになだれこみました。多くの人はお目当ての商品を注文した後も「〇割引」などの表示につられて何時間もセール会場を回り、翌日、あるいは商品が到着してから「いらないものを買ってしまった」と後悔することもありました。

     

    次第に賢くなった消費者は、セールが始まる前に実店舗に足を運び、現物を確認したり試着するようになりました。商品を気に入ると価格を確認し、ECサイトで同じ商品を探してカートに“取り置き”します。そうしてダブルイレブンのセールで値下げされるのを待って、購入するわけです。

     

     

    10月は大規模な買い控えが発生

    ダブルイレブンでの流通総額は年々増加し、2020年はアリババのECサイトで4982億元(約7兆7200億円)を記録しました。日本で報道されるのはアリババの数字だけですが、実際にはEC2位の京東商城(JD.com)、スマホメーカーのアップル、シャオミなどオンラインに販売チャネルを持つすべての業者がセールを行っており、「4982億元」はその一部にすぎません。

     

    ただし、増え続ける数字にはさまざまな“裏技”が使われています。当初は11月11日限りだったセールは年々期間が伸び、今では10月下旬に始まるようになりました。消費者は商品を予約し、11月11日に日付が変わると同時に決済され、発送が始まります(注:アリババは2020年にセール期間を分割し、決済と発送を複数回に分ける方式に改めました)。

     

    つまり11月11日に発表される数字は、約2週間のECサイトの消費額の合計なのです。また、ダブルイレブンが盛り上がるにつれ、消費者がダブルイレブンの値引きを待つことから、10月には大規模な買い控えが起きるようになりました。冒頭で紹介した「金九銀十」も、小売りの世界では死語になりつつあります。

     

     

    2009年に29万件だった宅配、2年で100倍に

    また、日本ではほとんど報道されませんが、ダブルイレブンで「流通額」と並んで注目されるのが「物流力」です。アリババをはじめ大手ECサイトは11月11日のセール開始後の配達時間の速さも競い合っています。

     

    中国の宅配業界はECの成長によって急激に発展しましたが、宅配需要が集中するダブルイレブンの日は、「試練の日」とも呼ばれています。

     

    ダブルイレブン1年目の2009年、アリババECサイトの11月11日の宅配件数は29万件でした。それが2011年には100倍近い2200万件に増え、2013年に1億件を突破しました。

     

    宅配を請け負う企業は荷物の急増に対応できず、配達の遅延、荷物の紛失・破損が多発しました。いら立った作業員が荷物を投げたり蹴ったりする画像がインターネットに流出し、大批判を浴びることもありました。

     

    物流麻痺が消費者の満足度を下げることに危機感を持ったアリババは2013年、主要宅配企業と連携して物流プラットフォーム「菜鳥網絡」を設立しました。出店企業が注文を受けると最適な宅配企業とマッチングしたり、将来の注文を予測して、倉庫に在庫を補充するなど、人工知能(AI)やビッグデータを駆使して配送の効率化を進めました。

     

    宅配企業も人力に頼っていた体制を見直し、この頃からITへの投資を加速させていきました。

     

    業務を改善し、経営効率化を進めた宅配企業は2016年から次々に上場。SFホールディングも2017年2月、深セン証券取引所に上場しました。

    2017年2月、SFが深セン証券取引所に上場

     

    中国国家郵政局によると、2020年11月11日の宅配件数は過去最高の6億7000件でした。ダブルイレブン期間中だとその数は30億件近くに達しました。

     

    消費者にとって、注文した荷物が翌日届くのはすっかり当たり前になりましたが、その当たり前を維持することは、中国の宅配企業にとって大きな試練であり、今年も年に一度の試練に向け、準備が大詰めを迎えています。

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